物 物
物 物
随分昔になりますが、石をモチーフに絵を描いている画家の家を改修したことがあります。とても素敵な画家さんで、夕食を御馳走になる傍ら、肝心の打合わせはそっちのけで、家に無造作に転がっている石や意味不明な置物の話で盛り上がったものでした。
その画家のこだわりは、内海の海岸線で拾う石。美しい形の石もあれば、なぜか見ただけで笑い転げてしまうような石もあって、その画家は、「波に削られた石は自然の彫刻みたいなもので、決して意図されたものではない素直な形なんだよ。」と教えてくれました。
そういう私の家にもずいぶんと無用なものがあります。魔法使いの杖のような流木、朽ち果てた木のこね鉢、引っ越しの時に思い切って随分と処分したものの、猪熊弦一郎の集めた「物 物」をぱらぱらと読んでいると、引っ越しの時に捨ててしまったガラクタのことを思い出して、少し胸が痛くなりました。
本の中に見覚えのある真鍮製の鍵がありました。私の実家の鍵と同じ形です。
実家は現在、祖母が住んでいますが、この真鍮の鍵だけはそのまま残して使っています。防犯的には問題はあるのですが、家族全員がこの鍵が好きなもので、いまだに変えられないし、変えるつもりもないようです。
無類のガラクタ好きとしては、実家をいつか壊すことがあれば、この鍵だけは、なんとかしてもらえないかなと密かに考えています。
物 物
画家 猪熊弦一郎が集めた「物」をスタイリストの岡尾美代子が選んで、写真家のホンマタカシが撮り下ろした本。集 猪熊弦一郎、撮 ホンマタカシ、選 岡尾美代子、文 堀江敏幸、編 菊池敦巳。
(京都府建築士会 京都だより2018年5号掲載)