中心のある家 建築家・阿部勤自邸の50年
中心のある家 建築家・阿部勤自邸の50年
先輩の建築家に誘われて、阿部勤氏の自邸、中心のある家に初めて訪れたのは、2012年でした。所沢の閑静な住宅街にあり、入口の前の敷地内に植えられた大きな欅が、街路樹となって、敷地内なのにパブリックなポケット空間ができていて、家が街に溶け込むような一体感がとても印象的でした。
その二年後、幸運なことに再び訪れる機会がありました。阿部さんの手料理を囲んでの長時間の滞在。至るところにぶら下げられたハンモックソファ、古いピアノ、部屋の中にさりげなく置かれたアンティークやアジアの小物たち。壁で囲まれた中心のある家は、狭い家の中に多彩な景色が存在していました。2階に置かれた手作りのデイベッドは、最高に居心地がよくて、一緒に訪れた建築家がぐっすり眠ってしまい、置いて帰りそうになるという一幕もありました。何度でも訪れたいと思う住宅で、ちょうど出版されたこの本を見ながら、コロナがあけたら、また見学させていただけたらと思っていた矢先、阿部さんの訃報が入ってきました。残念な気持ちとご冥福をお祈りするとともに、あの素敵な住宅が、住宅遺産として何らかの形でずっと生き続けて欲しいなと思います。
(京都府建築士会 京都だより2023年4月号掲載)
中心のある家 建築家・阿部勤自邸の50年
竣工し50年目を迎える今も、「毎日発見がある」という〈中心のある家〉。建築家自身が竣工時の原形を活かしながら、空間をつくり、手入れし、住まい続けてきた。図面・スケッチ一六四点、撮り下ろし写真三十四点、記録写真などの関連資料二一三点で辿る、日々繰り返される小さな改良や成長する庭とまちの関係、古びない家の軌跡。