建築家なしの建築
建築家なしの建築
学生時代に設計事務所でアルバイトをしていたとき、最初の仕事が事務所にある建築雑誌や本の整理の仕事でした。今思えば、お金をもらって勉強させてもらっていたのだなとありがたく思います。1970年代からの新建築、都市住宅、狭小住宅、室内、建築知識、今はもうなくなってしまった雑誌や、建築の名著など、整理とはいえ、全部にほぼ目を通して読んだことが、建築に関する知識の財産になりました。今回、最終回ということで、少し思い入れのある本について、書かせていただこうと思います。
「建築家なしの建築」は、言わずとしれた建築本の名著。事務所にあったのは、オリジナルのハードカバー本でボロボロになっていましたが、タイトルとバナキュラー建築というのが目新しくて、さらにボロボロになるほど読み込んだ本です。無作為の建築造形の素晴らしさに感動し、建築における「作為性」に疑問を持つようになったきっかけの本でもあります。鹿島出版の復刻本は、なんだか物足りなくて、26センチ角のオリジナル本が欲しくて今でも、ネットで探し回っています。
「ル・コルビジェと私」は吉阪隆正集の8で、なぜこの本だけが私の手元にあるのか話すとまた長い話になりますが、事務所の先輩から、頂戴した貴重な本です。コルビジェと吉阪氏のエピソードが書かれた物語のような本ですが、最後の章のCIAMの会議の話が、建築家コルビジェの姿に泣けてくる、是非読んで欲しい一冊です。
というわけで、2016年から足掛け7年5ヵ月、本の紹介と言いながら、誰も読んでいないと自分に言い聞かせながら、好き勝手に書かせていただきました。貴重な機会を与えてくださった編集委員会のみなさまとご一読いただいた会員の皆様に、厚く御礼申し上げます。また、麩屋町通の大喜書店の「うちの本棚」は、まだ続きますので、どうぞよろしく。
(京都府建築士会 京都だより2023年5月号掲載)
ル・コルビジェと私 吉阪隆正集8 出版社/勁草書房 絶版本